「お前、家出でもしたのかぁ?普通、あんなトコで足痛めて座んねーだろ。」
歩きながら男は言う。
俺は男の首を抱く腕にキュッと力を込め、口を開いた。
「お父さんと…、喧嘩した…。」
お父さんが怒鳴ったときの顔が、鮮明に頭に残っている。
怒ったお父さんを思い出しながら、消え入る声で俺は言った。
「喧嘩ぁ?つか家どこだよ。大分歩いたみたいだけど。」
「……中江沢…。」
俺の住んでるとこは中江沢5丁目。
今の俺の現在地は住宅に囲まれた場所だから、詳しくは分からないけど、きっと西江沢。
俺の家から歩いたらどのくらいだろう?
なんて考えてたら、いつの間にか男は歩いていた足をピタリと止めていた。
「中江沢!!?おま…っ、ハァ!?ここ西江沢だぞ?その靴でここまで来たのかよ!?」
「やっぱ西江沢か。靴な、間違えて履いてきたんだ。お父さんのお気に入りの下駄履いてきちゃった…」
何やら驚く男に反し、俺は呑気に話してた。
呆れたのか疲れたのか、男は深く溜め息をつく。
「ごめんな?俺、重いよね?」
「そーじゃなくて…。もうイイよ…。」
「?」
力強く抱っこしてくれている男に、優しさを感じる。
「ありがとう……。」
「さっき聞いた。」
「だって足りないもん…。俺、こんな優しい人見たの、お父さん以来だ。」
「お父さんお父さんって…。ファザコンかよ…。」
「お父さんカッコいいんだぜっ?」
男はまた溜め息をつく。
俺は気にせず、お父さんの武勇伝をたくさん話した。
