「ハァ…ハァ…っ」
この暗がりの中、俺は行き先も考えず、ただ闇雲に走った。
お父さんのことで頭がいっぱいで、家から飛び出し、逃げることしか考えていなかったけど…
ふと、足に違和感を感じ、下を見る。
「げ………。」
今まで走ってきて気づかなかったのが馬鹿みたいだ。
左足は俺のスニーカー。
右足には、なんとお父さんのお気に入りの下駄。
「…だっせぇ……………。」
自嘲気味に笑い、妙な悲しさが胸からこみ上げる。
大好きなお父さんの怒鳴り声きいて、ビビって…、意地張って…
「本当……、バカみたいだ……。」
とぼとぼと、高さの違う履き物で歩く姿は、なんと哀れなのだろうか。
哀れと分かっていても、意地は消えなくて。
家とは反対方向へ、ただただ歩いた。
空を見上げると、さっき見たときより高くなっている月。
月は満月。
くっきりと、静かな光を見せるけれど、今の俺は、その美しい光にでさえ癒されない。