「別れの言葉は言わない」



彼は言いました。

別れの言葉はないと…。



…そうです。


"さよなら"なんて、

ありはしないのです。



"はじめまして"がなかったのなら、


"さよなら"がないのは当然のことなのです。





…彼はいつものように、ピアノの演奏を始めました。

たおやかな旋律に紛れるように、私はそっと部屋を出ます……。




明日になれば、

そこは誰も居ません。






……そう、

最初からこの部屋には彼しか居なかったのです。





だって、

私は透明人間ですから。



fin