「明日、退院するんだ。

だから、最後にあんたの声聴かせてよ」


彼はそう言って、私の手を握りました。

声を持たない私は、ただ顔を伏せました。




「なんだよ…っ

このゲームは俺の勝ちだろ!?」


なにも言わない私に彼は怒ったように言いました。

握られた手に力が込められて、痛くなりました。


けれど、手よりも胸の方がずっと痛いのです。


痛くて痛くて、涙が零れました。



「……泣いてるのか」


ふいに、握っていた手の力が弱くなりました。
彼は確かめるように、そっと指先で私の目元に触れました。



「なんで…、あんたが泣くんだよ」




悲しいから泣いているのです。


……そして、

その言葉を届ける術がないから、涙は止まらないのです……。




「……まさか、」


そう呟きながら、彼は指の先で私の唇に触れました。



「喋れないのか……」


確認するようなその言葉に、私は思わず息を飲みました。

その反応を指先で感じた彼は、悲しそうな顔をして笑いました。