その翌日。


彼の病室を訪れると、

彼はピアノに覆い被さるように身体を倒し、苦しそうに顔を歪めていました。

それを見た私はすぐに彼のもとに駆け寄りました。


発作的な症状を起こしているのだということはわかりました…。

いつも元気そうにしている彼ですが、もう一年近く入院していることを考えれば、患っている病気は軽いものではないのでしょう。

私も同じだから、それはよく理解しています。


揺すっても起きない彼を見て、私はすぐにナースコールに手を伸ばしました。




…その時です



「捕まえた」


嬉しそうな声とともに、彼は私の腕を掴みました。

この時、私は彼に騙されたのだと気付きました。



「こうでもしなきゃ、あんたは捕まえられないって思った」


苦しそうな顔はどこへいったのか、嬉しそうな顔をして彼は言います。



逃れようと腕を引けば、逆に彼の方へ引っ張られました。

細身の身体からは想像もしなかった力強さに少し驚きました……。


彼は探るようにその長くて綺麗な指を、私の身体に這わせます。


「へぇ、やっぱり女の子だったんだ…」

胸の膨らみに少し触れると、彼はそう口にしました。



「甘い匂いがするからさ、そんな気はしてた」

言いながら、指を上の方へ持って行きました。

そして、私の頬に片手で触れました…。



「どんな顔をしているんだろうって、ずっと想像してたんだ」


輪郭をなぞるように指を動かしながら彼は言います。




「小っさいな」

片手を広げ、私の顔を包みながらそんなことを言いました。

私の顔が小さいのではありません。貴方の手が大きいのです。




「あんたの心臓の音、聴こえる…」


そう言って彼は笑いました。


彼に触れられ、私の心臓の音は聴こえるほど大きく高鳴っていたのです。


恥ずかしさに唇を噛み締める私に、彼は言いました。


「…俺も、同じぐらいドキドキしてる」

そう言って彼は掴んでいた私の腕を、自分の胸元へと近づけました。


手のひらを彼の胸に当てると、早鐘を打つ心臓の音が伝わってきました……。