「…さっきラジオで聴いた曲なんだ。
なんて曲か知らないけど、すごくいい曲だった」
演奏が終わると、彼は小さく笑いながら言いました。
「 なぁ、あんたはこの曲の名前知ってる?」
彼は私に尋ねました。
私はその曲の名前を知っていました。
しかし、それを口にすることは出来ません。
私が黙っていると、彼はまた不満そうにしました。
「……なんだよ。
いい加減、その黙りやめたらどうなのさ」
黙りをやめろと言われても、私にはどうすることも出来ません。
「めくらの俺をからかって楽しいか?」
「 」
私は"ごめんなさい"と口を開きました。
しかし、それは彼の耳に届くことはありません。
なぜなら私は、
口がきけないのです……
声を持たない私が、
どれだけ彼を想おうと、それは無駄な話でした。
私は彼に想いを伝える術を持たないのです。
…ですから、彼に私という存在を伝えることはしません。
黙りを決めこむ私に、彼はこう言いました。
「まるで透明人間みたいだな」
そこに居るのに、
姿は見えない。
声は聴こえない。
まるで、透明人間のようだと……。