男子を私が好きになる訳ないもの。うんうん、絶対ない。ないない。
 頭の中で何度も自分に言い聞かせるように呟いた。
 だって、恋なんて、叶いっこないから。
 とりあえず落ち着いたのか涙目で翔がこちらを見て、ニカっと、ちょっと意地悪な、けれども素直な笑顔を向けた。
「お前、なかなか面白いな。油藤、美奈だったっけ?覚えとく」
 そして美奈、ともう一度確認するように呼んできた。そんなちいさな事にさえ、私の心はピンク色にかき乱されてしまっていた。
 とりあえず言葉を出そうと思っても、頭の中がかき乱されてうまく言葉がでない。
「あ、えっと、その・・・うん」
 かろうじて言葉は出たがそっけないモノだった。
 あー!私の馬鹿!なんで普通に話せないの!絶対冷たい奴だと思われたよー!・・・・・・・・って、何で気にしてんの私!例えこの気持ちが恋だったとしても叶わぬ恋なんだから・・・早く忘れなきゃ。
 胸がキュゥっと、苦しくなった。涙が出そうだった。
「じゃ、さよなら・・・ッ」
 うつむきながら急いで言って、翔の横をすり抜けて走って人気のないトイレへ駆け込んだ。
 翔が驚いた顔をしていたのが視界の端に見えた。
 今私の心にあるのは、翔への気持ちと、周りへの劣等感だった。