「風、止んじまったな」


 風の吹かない屋上なんて、ただの灼熱地獄だ。

 滴る汗を拭って、俺は伸びをする。


「教室戻るか」


 背を壁に預けて、片膝を立てている神宮の目はどこか遠くを見詰めていた。


「神宮?」


 呼び掛けてやっとこっちを向いた瞳は、何だか虚ろげだ。

 神宮がぼうっとしてるなんて珍しい。

 そう思って見ていると、立てた片膝に額をつけて、ぽつりと呟いた。


「……先に行って」

「あ? 予鈴、そろそろ鳴んぞ」


 真面目な神宮が教室に戻らない、っておかしくねぇ?


「5限サボんの?」

「そんなわけ……無いでしょ」


 俯いたままの神宮の声が、小さくなっていく。

 おかしいな、って思ったら、神宮が急に立ち上がった。


「おい、フラついてんじゃん。大丈夫か?」