一歩、一歩。

 教室に近付く度に、妙な緊張感に襲われる。

 俺らしくねーな、って思う。

 神宮はいつも来るのが早いから、きっともう、あの席で本を読んでいるんだろう。

 謝れば本当にどうにかなるのかなんて分からないけど、謝らないでいるよりは全然マシだ。

 少しだけ空いてる、教室の後ろ側の扉を開けると、すぐ近くに神宮の後ろ姿がある。

 思った通り、何か厚みのある本を読んでいた。

 一つ息を吐いて、神宮の隣に立つ。


「神宮」


 声を掛けると、頁を捲る手が止まって、神宮が俺を見上げる。

 眼鏡越しの瞳は、いつも通り冷たい。

 薄紅の唇は固く結ばれて、口を開く様子は無い。

 周囲の視線を感じてざわつく心を抑えながら、俺は一つの言葉を口にする。


「――悪かったよ」


 言った直後、込み上げる恥ずかしさに、俺は神宮から目を反らした。