「じゃ、全部だ。お前まで怒られたくねーだろ?」

「怒られるのはそっちだよ。でもまぁ、何かあったら君に脅されたって言うことにするよ」

「言うなぁ」


 眼鏡くんの冷ややかな笑みに対して、俺は苦笑いを返す。


「ま、とにかく助かったよ。ありがとなー」


 部屋の壁に掛けられた時計は、22時半を指している。

 長居は無用だ。

 咲都のお小言が余計に増えるからな。


 清泉の寮は、一部屋の中に個室が二つと共有スペースにバス・トイレ。

 その共有スペースには、簡易キッチンが備え付けられている。

 簡易キッチンって言っても、使うヤツはごく僅かだ。

 俺は眼鏡くんの個室を出て、部屋の狭い玄関で靴を履く。

 そっと扉を開けて周囲の様子を窺ってから、廊下に出た。

 振り返ってこの部屋の番号を確認すると、俺の部屋と案外近いことが分かった。

 それから、何気なくネームプレートを見る。

 坂井に神宮、か。

 眼鏡くんがどっちだか分からないけど、両方知らない名前だ。


 そうしてようやく部屋に帰り着いた俺を待っていたのは、思っていた通り咲都からのうんざりするような説教だった。