「着替えてるの珍しいね。腕動かせないのに出掛けるの?」

「ああ……。昨日、神宮の眼鏡を壊しちまったから代わりのを探しに、な」

「もしかして、神宮くんを喧嘩に巻き込んだの?」

「巻き込んだっつーか、なんつーか……」

「口より先に手が出る癖、どうにかしなよね」


 咲都の言葉に反論出来る筈もなく、俺は腕を庇うように、背を屈めて飯を口に放り込んだ。


 昨日、あの後──

 俺は無理矢理、今日の約束を取り付けた。

 気付かなかったとはいえ、踏み付けて壊したのは俺なんだから、弁償なりなんなり、ちゃんとしたいんだ。

 神宮は、『もうすぐ夏休みだし、予備の眼鏡もコンタクトもあるから、気にしないで』って言ってたけど。

 その予備の眼鏡ってのが黒縁の冴えないダサメガネで……、はっきり言って神宮には似合わない。

 コンタクトは……却下だ。

 眼鏡を外した神宮の顔は、泣き顔を思い出すから余り見たくない。

 つか、他のヤツに見せたくない。

 高嶺の花とか、女王様とか言われてるだけのことはあって、神宮はやっぱり、美人だ。

 眼鏡が無くなって顔を隠すモノが無くなると、鋭さが無くなって、スッキリとした目元とか、日に焼けてない肌とか……そういうのが、余計に目立つ。

 惚れた欲目かもしれねぇけど、不思議な独占欲を感じてしまう。


 俺って、こんなんだったっけ……。


 神宮の事を好きだと認めた瞬間から、俺の中で、何かが変わり出した気がするんだ。