靴紐を結び直そうとしゃがんだ瞬間。


 ――パキン……


 て、膝から音がした。


「――い……っ!!」


 思わず声を漏らす程の痛みが、右膝から全身に駆け抜ける。

 身体を襲う急激な痛みに、俺はその場に座り込んだ。


「ん? どうかしたか?」

「何でもねーよ……」


 顧問に気付かれたくなくて、俺はそのまま靴紐を手に取る。

 痺れるような痛みに、立ち上がることが出来ない。

 というより、右足に力が入らない。

 全身が心臓になったみたいに、鼓動が大きく聞こえる。

 自分を落ち着かせるために、俺は手に持ったままだった靴紐を結び直した。


 どれくらい、そこに座っていただろう。

 数分かも知れないし、十数分かも知れない。

 痛みが薄れてきたら、さっきの事が嘘みたいに立ち上がれた。


 何だ、今のは……。


 膝を回してみても、ジャンプしてみても、痛みは殆ど無い。

 もう一度柔軟をして、俺はグラウンドを走り出した。