加納欄の奪還 シリーズ25

「あなた、誰?イチ?シン?」

記憶の声をたどろうとした。

「名前覚えてた?当たり前か、刑事だもんな」

「祥子さんは?!無事なの?!声聞かせなさいよ!」

「俺の名前当てたら、声聞かせてあげるよ」

あたしは、迷うことなく答えた。

「イチでしょ」

「なんだよ。そんなに俺の声、気に入ってくれちゃったの?しょうがねぇな、少しだけだぜ」

あたしの隣で、鮎川さんが感心していた。

「あ〜、もしもし?あたし」

受話器口から、祥子さんの元気のない声が聞こえてきた。

「祥子さん!?大丈夫ですか?怪我してませんか?!」

「大丈夫じゃないわよぉ〜。なんで、欄と飲んでたのに、わけわかんない事になってんのよぉ〜」

「どこにいるんですか!?」

「その質問には、答えられないよぉ。なぜって、麻木刑事は、昨日から目隠しされてるんです〜」

イチが、会話に割り込んできた。

「怪我してないですか?」

「大丈夫よ。アンタこそ大丈夫だったの?」


こんな時でさえ、あたしの心配しちゃって。


「私は、大丈夫ですよ」

「おい、祥子!聞こえるか?」

「高遠さん?」

「戻って来たら、約束してた海に連れてってやるから、しばらく我慢してろよ」

あたしは、思わず高遠先輩を見てしまった。


こんな時に、デートの約束ですか?


高遠先輩、そ〜と〜祥子さんの事……。


祥子さんの返事が聞こえた。

「海なんて行きたくないわよ。しばらく、世間の音をシャットダウンして、すごしたいわ」


こ、断られた(゚_゚?


高遠先輩……。


イチの笑い声が聞こえた。


そんなに笑わなくても言いじゃない!


「断られたところで、人質交換の件なんだけど、13時にS街のスクランブル交差点で、同時に解き放つ。それだけOK?」

「13時S街のスクランブル交差点ね。一般市民に、危害を加えることはないんでしょうね。あくまでも、私と祥子さんの交換だけでしょうね」

「あぁ、そっちが、ちゃんと言うこと聞いてくれればな。刑事は、信用できねぇって言ってたからな。無事に交換出来るまで、どこかで麻木刑事か、加納刑事の命だけを狙ってるらしいぜ」