加納欄の奪還 シリーズ25

「もういい。それより、昨日の事を話せ」

あたしは、顔を上げ、高遠先輩を見上げた。

高遠先輩の表情は、先程までの怒りが、おさまっているかのように見えた。

あたしは、2人で飲んでいる時に、話し掛けて来た時の事。

あたし達の名前と職業を知られていた事。

祥子さんが、人質にとられた事。

盗聴器を付けられた事。

今日の連絡があるまで、何もするなと、脅迫された事。

スタンガンでやられた事。

目が覚めて、祥子さんを探したけど、見つからなかった事。

など、昨日の出来事を、思い出せるだけ、詳しく高遠先輩に、話して聞かせた。

そして。

「私と交換なら、最初から、私を狙えばいいのに、わざわざ祥子さんをさらった理由が、わかりません」

と、付け加えた。

「知らない奴なのか?」

高遠先輩は、念を押して聞いてきた。

それはそうだろう。

名前まで知られているうえに、人質交換でも名前があがったのだ。

だけど、あたしには、名前も顔すら記憶がなかった。

あたしは、首を左右に振った。

「記憶にないです。ただ、御大に会って見ないとわかりませんけど」

雇い主が、祥子さんを連れて来るのを希望だって言ってた。

ってことは、祥子さんと御大は、顔見知りの可能性がある。

なんにしても、今のあたしには、無事に祥子さんを救出するのが、第一の目的である。

あたしは、もう一度高遠先輩を見上げた。

「アイツだって刑事さ。簡単には、やられたりしねぇよ」

そう言ってあたしの頭に、ポンと手を置いた。

そして、慌てて走ってきた苫利先輩に、声をかけられた。

「先輩!犯人からです!」

あたしと高遠先輩は、ダッシュしていた。



1台の電話の周りに、大の大人が取り囲んでいた。

「吉井さん!俺が代わる!」

高遠先輩は、電話に駆け寄ると即座に言った。

あたしも1歩遅れて、駆け寄った。

「いや、欄ちゃんご指名だ」

と、あたしを見た。

あたしは、吉井さんを見、高遠先輩を見て、ゆっくり、受話器を受け取った。

「加納です」

部屋の空気が、一辺にして、張り詰めたのがわかった。