加納欄の奪還 シリーズ25

その瞬間に、立ち上がる時にさりげなく抜き取ったナイフを、ケイの右腕に向かって投げた。

ナイフは、火炎口の中に飛び込み、接続管に突き刺さり、微妙な隙間を作り出した。

ケイは、あたしに向かって、また炎を出そうとスイッチを押したが、その瞬間に、ケイの右腕が爆発をおこした。

「うわぁぁぁ!!」

ケイは、悲鳴をあげ、転げ回った。

その隙に、アモンを捕らえようと、向きを変えた所で、あたしの体が金縛りのように動かなくなった。

アモンが、いつの間にか、車椅子の人物の隣に立っていたのだ。


な……んで?


あたしは車椅子の人物を見つめた。

声が出なかった。

「久しぶりですね、欄」

聞き慣れた低音の丁寧な話し方。

黒いスーツに黒いスラックス、黒靴と、いつもの全身黒づくめで車椅子に座っていた。

「どうしたんですか?呆然として」


……生きてた。


やっぱり……生きてた。


あたしの血がザワザワとザワついた。

「師……範」

あたしは呟くと、アモンを見て、また師範に目線を向けた。

車椅子に座っているのは、紛れも無く、麟孔明だった。

あたしは、冷静さを取り戻した。

突然現れていたら、まだショックを隠しきれないだろうけど、発信機付きの真珠のピアスを壊された日から、いつかは現れるだろう。と、予想はしていた。

ただ、あれから何の変化もなく日常が過ぎて、今回の祥子さん誘拐だった為、師範が裏で糸を引いていたとは頭から考えていなかったのだ。

「久々の再会に、もっと喜んでくれると思ってましたが?」

師範は、車椅子から下りず話した。

「喜ぶ?そんなわけないじゃないですか。あの爆発の時に、二度と会うことはないと思ってましたし、ピアスを一発で壊すなんて、師範くらいしか出来ないと思ってましたから」

「私が、お前の前に現れる理由なんて、ひとつだけですけどね。今のナイフ見事でしたよ。訓練は続けているようですね。ピアスを壊したのは、私ではありませんよ、アモンです」

とさらっと言ってのけた。

そして、目線をケイに向けた。


ピアスを壊したのが、師範じゃなくてアモン?やっぱりただ者じゃない。