加納欄の奪還 シリーズ25

大山先輩運転の元、あたし達は、指定されたS街へ向かっていた。

車内での会話は、一切なかった。

各々、考えることが、あるのだろう。

「着くぞ」

大山先輩が、フイに言った。

「仁、少し離れて下ろしてくれ、欄と距離をとる。」

「了解」

高遠先輩の提案に、大山先輩が、答えた。

高遠先輩は、車から降りると、タバコを取り出した。

あたしを乗せた車は、そのまま高遠先輩の前を通り過ぎて行った。

「次の信号機で降りるぞ」

大山先輩は、言いながら、ハンドルを左に回した。

S街のスクランブル交差点。

ここは、24時間、人が行き来している。


こんな所で、交換なんて。


あたしは、自分の置かれている立場を、再確認した。

一瞬でも、妙な動きをすれば、間違いなくあたしか、祥子さんか、最悪一般人に、なんらかの行動を起こすだろう。

これは、簡単な人質交換に見せて、一般人を巻き込んだ、大胆な人質交換なのだ。

祥子さんが、無事に先輩達の場所へ着くまでは、大人しくするしかなかった。

建物の壁や、ベンチを見ると、要所要所に2人組の変装をした刑事が、いろいろ画策しているようだった。

あたしは、一度伸びをすると。

指定場所へ歩いて行った。

そのすぐ後ろを、大山先輩がついて来た。

なんだかんだとしているうちに、予定時刻の5分前になっていた。

あたしは、カチューシャを頭にさすと、少し頭をふった。

カチューシャは、落ちることなく、頭に飾られていた。

「いざとなったら切り上げて来いよ」

大山先輩が、声をかけた。


迎えには来ないんですね(-.-;)


「お任せ下さい。ただ、向こうの黒幕も知りたいですよね?」

あたしは、大山先輩に振り向いた。

その顔は、わかるギリギリまで調べて来いと、言っていた。

「大人しくしてるのは、祥子さんが解放されるまでの辛抱です。祥子さんが、無事に戻ったあかつきには、警察の恐ろしさを(*_*)」

途中で、話すのをやめてしまった。

大山先輩が、また無言で見つめていたのだ。

その気持ちが痛いほどわかる。

「欄、危なくなったら、すぐに逃げろ。逮捕は考えなくていい」