「………………。」
言葉が出ない。
………………違う。声が出ない。
「…………」
何かを言いたいのに、言えないんだ
しゃべりたく、無いんだ。
「……………!…」
変わりに、涙ばかりが出てくる。
「……っ」
「神田!!」
あたしは逃げ出した。
この世界から、この時間から、この思い出から
走って、走って……、とにかく、がむしゃらに走って逃げだ。
「……はぁっ…、っは…!…」
着いた場所は、屋上だった。
空にはうっすらと雨が降っていたけど、そんなの構わずにフェンスにもたれ掛かった。
「……っ薬…!」
この時期にあんなに走る事になるなんて……、
発作が収まらない。
胸の痛みが奥の方から伝わってくる。
――ゴクッ……―。
「…は…っ、は、…はっ…く…!、…………はぁ……」
……薬を呑み、やっと息が整おる。
「…………はぁ…」
あたしは、さっきより勢いが強くなっている雨なんて関係なしで、仰向けにねっころがった。
顔に雨が当たるから、無意識に目を閉じた。
「……………………」
…今考えれば、走るのなんて、久しぶりだ。


