-カランカラン

「いらっしゃいませ」

朝7時に開店するカフェ、Happily。
珈琲をメインとしていて、朝の5時ぐらいからは珈琲の良い匂いがお店の中に広がる。

「ブレンドのホット」
「はい、かしこまりました」

そして8時に必ず来店する一人の男性。
これがこの店のパターンとなっている。

「おまたせしました。ブレンドのホットになります」
「……」

男性が新聞を広げ、こちらを一度も見ないのもいつものこと。
そんな男性を私も気にする事無く、軽く頭を下げカウンターの中に戻る。

「マスター、あのお客さんいつも来てくれるけど、いっつも珈琲だけだよね」

珈琲を運ぶ時に使ったお盆を、いつもの場所に戻しながらマスターだけに聞こえる声で話しかけると、何か楽しそうに笑われた。

「夏海ちゃんはまだ気が付かねぇの」
「何がですか」
「……知りたいのならこれをあのお客さんに出しておいで」

そう言って何か悪戯を思いついた悪餓鬼のような顔をして笑うマスターが渡してきたお皿にはクッキーが2枚。

「本当にこれで私が気が付いてないことが分かるんですか?」
「試してみれば分かるさ。それとあのお客さんの苗字は高遠って言うんだ」
「は、はぁ…それが」
「呼んでみな。そしたら夏海ちゃんも多分気が付くから」

少し納得できないまま私は男性の元にクッキーを運ぶことになった。

「失礼します。こちら本日のサービスになっております。宜しければ後ほどご感想聞かせてくださいね、高遠さん」
「ッ…何で俺の名前」

珈琲をすすっていた高遠さんは名前を呼ばれ少しむせながら私を見た。

「えっと、マスターが教えてくれました」

カウンターでコップを拭いているマスターを一度見て、高遠さんにまた視線を戻す。

「……糞兄貴!!」
「お兄様って呼べよ、孝也」

そうしたら高遠さんからは信じられない台詞を聞くことになるし、カウンターには楽しそうに笑うマスターがいた。