猫になった僕

「ほんとの拓也はお話ができないから、ヒロ君の言っていることもわからないんじゃないかって!。」

僕は拓也君が怒っていないかどうか、怖くて顔が見られなかったから目をつぶっちゃった。
でも拓也君は優しい声でこう続けて言った。

「そうだね、ほんとの拓也の表の部分では、きっとヒロ君の声や姿は聴いたことあるって、見たことあるってなんとなくわかってても、お話は何を言ってるのかは、わかってないだろうね。」

「じゃあどうして三毛猫拓也君は、僕がいつも拓也君に挨拶してるって知ってるの?」

拓也君が怒ったり嫌な気持ちになっていない気がしたから僕は思い切って聞いてみた。

「うーんそうだな、なんて言ったらいいかな・・・。」

「つまりね、ほんとの拓也の手や足を動かしたり、声を出したり、考えたりしているところと別なもっと心の深ーいところに、ほんとの拓也の手や足は動かせないし、えーとそうだな、ほんとの拓也に命令することができないって言ったらいいかな・・・そうだな拓也の心の一番深いところにはね、ちゃんと何がどうなってるのか、誰が何を言っているのか、わかっているところがあるんだよ。」

またとっても難しくなっちゃってなんだかよくわからない僕に拓也君が一生懸命お話ししてくれる。

「簡単に言ってしまえば・・・ほんとの拓也はお話もできないし、お話もわからないけど心の一番深いところでは全部わかっているって事かな。」

「そうなんだ!」

僕はうれしくなって大きな声でそう言った。

「ん!ヒロ君わかってくれたの。」

拓也君がおでこにしわを寄せて僕に言った。

「マリさんが言ってたよ!お話がわからない人でも一生懸命にその人のことを想えば、きっとその人の気持ちがわかるって。」