「あれ、池谷、帰るの?」

「集中できないんで。」


なれなれしい予備校の講師。
この雰囲気には未だに慣れない。


「家でちゃんとやれよー」
という講師を軽い会釈でかわすと、
無意識にため息がこぼれた。

帰って何をしよう。
勉強する気にはなれないし。
受験生がこんなこと言っている暇はないんだろうけど。


「陽平」


出口のドアを引こうとしたとき、
俺は後ろからの聞きなれた声に呼び止められた。

麻美だ。


「陽平、帰るの?」

「なんか今日集中できないから」

「そっか~、じゃああたしも・・」

「いや、麻美はやってきなって。
俺に合わせることないから」


麻美は、同じ学校で同じ学年。
付き合ってもう1年2ヶ月になる。


「そっか、分かった」
そう言って少しだけ俯く麻美に手を振り、
俺は予備校を後にした。