「ここは私に任せなさい!ジン、りんごを一つレオに渡してっ!」
いきなり叫ぶアリーナにジンは慌ててりんごを渡す。だが渡された本人は意味が解らず怪訝な顔つきでアリーナを見返した。
「早くそれを一口かじって!」
アリーナに叱責され、言われた通りりんごをかじると、すぐにそれは奪い取られる。
くるっと後ろを振り向いた彼女は乙女の雄叫びに負けず劣らずの大声で叫んだ。
「あなたたち!見ての通りこれは先ほどレオドール様がかじったりんごよ!はじめに手に入れた人はレオドール様と《間接キッス》ができるわーーーーー!!!」
叫ぶと同時に勢いよく投げられたりんご……。
まるで時間が止まったかのように全ての人間の動きが止まった。
「キャーー!レオドール様のかじったりんごよーー!」
「向こうに落ちていくわ〜!」
「間接キッスは私のものよぉ〜〜!!」
命短き、恋せよ乙女――
またもや凄まじい奇声を発しながら遠くに消えていったりんごを追いかけ、乙女たちは猛獣のごとく来た道を戻っていったのだった。
未だに固まる後ろの二人にアリーナは綺麗な笑みで「どんなもんだ」と微笑む。
「……す、すげぇ」
「――オホホホ。人生の先輩をなめんじゃないわよ」
とにかく、無事に戻ることができたアリーナたちは露店の本屋で帰りを待っていた(立ち見をしていた)ルイスと合流し、途中馬を借りて帝都の中心にそびえ立つ王宮にたどり着くことができたのだった。
《おまけ》
「――で、何故今さら馬を借りたのです?」
「――ルイス……。それだけは聞かないでくれ……」
口が裂けても「女たちが追いかけてくるのが怖いから」とは言えないレオドールだった……。
