「―――ほぉ、随分騒がしいな……?」
――突然、群がるギャラリーの中から背筋も凍るような低い声音が響き渡る。
見物人がぱっと間を開けると、そこにはどす黒いオーラを放った鬼の形相のレオドールが立っていた。
「……お、おい。あれって――」
「――レ、…レオドール様っ!?」
思わぬ人物の登場にギャラリーはどよめく。
当の本人はというと走って来たためかフードは外れ乱れた金髪が額に張り付き、肩で息をする様はより一層恐ろしさを醸し出していた。
あまりの殺気だった様子に恐れをなしたのか、ギャラリーの消えた広場はし―――――んと静まりかえり、異様な空気が漂う。
レオドールは凍りつくような笑みを浮かべ、ベンチに座る二人に近づいていった。
「…こんなところで一体何をしているんだ?」
美しい顔に青筋を立てて仁王立ちする様はまさに魔王さながらである。
地の底を這うような声音に目の前の人物はあからさまに動揺した。
「いや……これは、…その―――食事♪みたいな?」
可愛らしく♪をつけて言い訳してみるジン……。
その勇気は褒め称えるが、いかんせんレオドールの堪忍袋がとうとう音をたてて切れたのだった。
「黙れっ!何が『食事♪』だ!!下らないことをほざくのもいい加減にしろ!散々あれほど勝手な行動をするなと言ったのに片っ端から食べ歩きやがって…誰がその金を払ってると思ってるんだ!」
鼓膜が破れるような怒声が広場に響き渡る。
「ごめん!悪かったって!」
ジンは必死に顔の前に手をあわせ謝るも、一向に止む気配は見られない。
レオドールは一度怒らすと後が怖いのだ。
延々と地面に正座させられ説教を聞くはめになる。
その時間およそ3時間程度……
それこそ時間の無駄というものだが、逆らうとさらに恐ろしい目に会うため誰も文句を言わなかった。
否、言えなかった……。
まあ…自業自得というものだが、ジンは何とかそれだけは避けようと様々な解決策を練る。
――が、最悪なことにレオドールの怒りの矛先は思わぬ人物へと変えたのだった。
