ルージュの森の魔女


その頃、アリーナとジンは食べ物の屋台ばかりがずらりと並ぶ通りに来ていた。世界各国の料理が集まるここは二人の底知れぬ欲望を満たすのにうってつけの場所である。
そこらじゅうから美味しそうな匂いを漂わせ、鼻唄を歌いながら歩く二人の鼻腔を刺激していた。

片っ端から食べまくる二人はその容姿も反映してか、しだいに人々の視線を集めていく。

「おじさーん!ここの串焼き10本ちょーだい!」

若々しい元気な声が串焼き屋の前で響いた。
屋台をきりもりしていた、がたいの良い男は声の主を見るとにかっと白い歯を見せる。

「おお!兄ちゃん威勢がいいね〜、それにとんだ別嬪さんまでいるじゃないか!」

屋台のオヤジは袋に20本くらい焼きたての串焼きを入れるとジンに差し出した。

「これはオマケだ!あの嬢ちゃんにくれてやんな!」
なんと気前のいいオヤジだろう。

最後にオヤジはこれまた素晴らしいスマイルをジンに向け「頑張れよ!」と親指を立てた。


果たしてその真意が伝わったのかどうか定かではないが(否、明らかに伝わってないが……)二人は笑顔でお礼を言うと近くの噴水がある広場に移動する。

「このお肉柔らかくて美味しいわね〜♪」

「だろ!帝都にある食べ物はどれ食っても美味しいんだぜ!」

ベンチに座り、僅な時間であっという間に20本の串焼きを食べつくした二人に見ていたギャラリーは『おお!』と歓声を上げた。

しまいには「珍しいカップルもいたもんだな!この饅頭全部あげるよ〜」「いやーねーちゃんの食いっぷりの良さには参った!金は要らねぇから特製ステーキを持っていきな!」などといった人が出てくる始末である。


軽く大食い大会へと発展したそれを端でじっと見ていたクロードは、

「おお!?これは嬢ちゃんのネコかい?ほらこれ食いな」

とか……

「ママー!ミミもネコたんに餌あげるー!」

……など、自分にも餌を投げ与える人が出て来たために、げんなりと……ひじょーにげんなりとした表情でアリーナのスカートの中に隠れたのだった。


見ているだけでも吐き気を催すのにこれ以上何を食べろというのか?
若干、餌を与えてきた人に殺意を覚えたクロードだった。