よほど人間の女に気配を悟られたのが悔しかったのだろうか、少年は自身の背中から生えている蝙蝠のような羽をバサリと広げた。
それを落ち着かせるように青年は柔らかく微笑む。

「しょうがないよ。だって…彼女は《伝説の魔女》なんだから。ところで彼女は今どうしてる?」

「魔女だったら今頃帝国の奴らと一緒にいるぜ。いいのか?このままにして……」

このままというのは「魔女が帝国と協力してもいいのか」と言うことだろう。
しかし青年は美しい顔に綺麗な笑みを浮かべ答えた。
「ふふ、こちらにも考えがあるから大丈夫だよ。――それよりジェイ、君には新しい任務をあげよう……」

金色の瞳を細め微笑む主人にジェイと呼ばれた少年は直ぐ様膝まづき頭を垂れる。

「後で使いを送るからもうさがっていいよ……」

「仰せのままに、ネオ様」

より深く頭を垂れると少年は一瞬で姿を消した。

残された青年はゆっくり玉座から立ち上がると、月光が射し込む窓辺に歩み寄る。
そこから見える漆黒の夜空に青年は人知れず笑みを浮かべた。












「……もうすぐだ。もうすぐ会えるよ。――アリーザ……」



狂喜を宿した仮面の奥の瞳はいつもより禍々しい赤色を放つ。






世界を狂わす狂想曲(カプリッチオ)はゆっくりとその旋律を奏で始めたのだった―――