ルージュの森の魔女




「……ぅ、……っぐ…!」

目の前の男だけでなく、レオドールたちまでもがあまりの息苦しさに膝をつく。そんな中、漆黒の魔女は平然をした様子で立ったまま男たちを見下ろしていた。




「―――貴様……、それをどこでしった……」

まるで少女のものとは思えない地を這うような低い声が辺りに響き渡る。
その声に目の前の男は心の底から震え上がった。

身体の全てから放出される禍々しい殺気に彼は本気で魔女を怒らせたことを悟る。
本能で自分の身が危ないことを悟った彼は、焦りながら別の手段を打とうとした……。


――――が、




「…ゼノクロス殿…!落ち着くんだっ!!」





レオドールの必死に紡がれた言葉が辺りに響く。
同時に辺りを覆っていた重苦しい殺気も一瞬で消え失せた。
何が起こったのか顔を上げると闇夜に立ちすくむ二人の姿が浮かび上がる。


そこには金髪の青年が魔女を抱き締めながら立っていた。





――一方、自我を失いかけていたアリーナは自分の体を包む暖かい温もりにはっと我にかえった。
瞬きをすると闇夜なのに金糸のように輝くプラチナブロンドが目に映る。


「…レ、オドール?」

アリーナがそっと呟くとレオドールははっと顔を上げアリーナの瞳を見つめた。
「…もとに……戻ったのか?」

心配そうに見つめてくる翡翠色の瞳にアリーナの胸はズキンッと音をたてて疼く。

――まさか……こんなことで自我を失うなんて……

久しぶりに聞いた名前につい過去を思い出し我を失ってしまったアリーナは酷く己を諫めた。
もしこのまま暴走していたらここにいる全ての人間を殺していただろう。


――否、それだけでは止まらなかったかもしれない。
そう思うとどんな方法であれ現実に引き戻してくれた青年には感謝しなければならなかった。

「…ありがとう、レオドール。――だから…そろそろ離してくれるかしら?」

未だに己を抱きしめている青年に対しアリーナはできるだけ柔らかく微笑みかける。
その表情にレオドールは安堵したものの、彼女の目が笑ってないことに気づき慌てて腕を離した。