君には、絶対に…

「もう、本当に驚いたんだよ?いきなり倒れたから…。」

「いやぁ、床が濡れてたのかな?滑ったんだよね~。でも、本当に大丈夫だからさ!」

心配してもらえることが嬉しいと感じたのは最初だけで、話し始めてすぐ、やっぱり今井さんには笑っていてほしいと思った。

心配する表情なんて見ているよりも、いつものように笑顔でいてくれる方が、俺にとって、何よりも励みになる。

だから、俺は精一杯笑ってもらえるように、少しでも心配を払拭出来るように、何も心配ないっていうことを強調し続けた。

「洋介、そろそろ行くぞ。」

ようやくちょっと笑って話せるぐらいになった時、将人が俺を呼びに来た。

もう少し話していたかったけど、試合のことを話したりしなきゃいけないと思って、重い腰を上げた。

「次の試合、勝てたら優勝だよね?無理しないでね?」

「俺はいつも無理してないよ?」

俺は笑いながらそう言って、体育館に戻った。

体育館の中を歩きながら、頭で考えていたことは試合のことじゃなく、今井さんのことだった。

今まで知らなかったことがたくさんあるからこそ、今井さんの良いところにたくさん気付く…。

前々から感じていたことだけで、本当に優しい人なんだと思う。

表情とかを見ていると、本当に心配してくれていることも分かるし…。

だからこそ、心配かけたくないとも思うし、次の試合は心配かけないようにプレイしたい。

「―――おい、聞いてるか?」

「大丈夫、大丈夫!何とかなるよ。」

この試合を勝てば優勝なんだ。

だから、将人や睦に迷惑をかけっぱなしでいるわけにはいかない。

だいたい、優勝決定戦で当たる相手は、うちのチームと同様にここまで勝ち上がってきたチームなんだから、俺が足を引っ張っていたら勝てるわけがない。

どんなに右足が震えようが、この試合が終わるまで保てば良い。

そう、この試合が終わるまで…。