「近くに座ってたんだからさ、話ぐらいすれば良かったのに。」

“話ぐらいすれば良かったのに。”

きっと、俺も自分のことじゃなかったら、簡単にそう言うことが出来た。

でも、自分のこととなると、簡単そうに思えていたことが、ものすごく難しく感じるんだ…。

話しかけようと思った途端、急に緊張してきて、彼女を避けたくなってしまう…。

ただ、そんな自分に戸惑うばかりで、結局話せず終い…。

それでも、1つ確かなことは、俺は今井さんのことが気になって仕方がないということ…。

「簡単に話しかけられたら、苦労しないよ…。こういうのって初めてだからさ、何かこう…どうしたら良いのか分からないんだよ。」

俺がそう言った瞬間、睦は少し口元を緩ませ、小さな声で笑った。

それは、馬鹿にしたような笑いというわけでもなく、言葉では表しづらい笑い方というか、いつもと違った笑い方だった。

ただ、少しでも笑われたことに、俺はちょっとムキになったんだ。

「そ、そういう自分はどうなんだよ!?睦だって、未来先輩のこと―――」

「あぁ、好きだよ。好きすぎて、どうしようもねぇぐらいに好きだな。」

その場のノリで、ふざけ半分に未来先輩の名前を出してみると、意外にも睦は動揺することなく、本心を話してきた。

まさか、好きだと正直に言うとも思っていなかったし、もっと照れたり、動揺すると思っていたから、俺は睦の言葉や表情に驚かされた。

「でも、俺の勝負はまだ先さ!11月に試合があってさ、その試合に出て、活躍して、もし、勝てたら、俺は勝負しようと思ってるんだ。今はバスケに集中しなきゃいけないし、集中したいから、まだ勝負は先だけど、お前は違う!もうすぐチャンスが来るじゃん!?」

「は?」