8月10日。
少し前に、バスケ部の退会が終わり、先週夏の合宿も終わって落ち着いてきたから、少しずつだけど、俺達は来月の大会に向けて練習を開始していた。

「なぁなぁ?洋介さぁ~もしかして、今井のこと、気になってない!?」

「え、え!?だ、誰だよ、今井って!」

俺がバッシュを履いて、紐を結んでいると、睦が笑いながら話しかけてきた言葉を聞いた瞬間、一気に動揺していた。

「またまた~!そんな言い訳しちゃって~!春に転校してきて、洋介の席の後ろに座ってた子だよ!」

やっぱり【今井】って名前だったんだ…。

転校生が来たあの日、全く興味がなかったから、名前も聞いているようで聞いていなかったんだ。

ちゃんと知ろうと思えば、簡単に知ることが出来たと思うんだけど、学校にいる間、変に意識しちゃって、結局何も知らないままだった…。

「おいおい、ど~なんだよ~!?気になってるっつーか、もう好きな―――」

「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!」

「もう~洋介ちゃん、照れちゃって!ほら、お兄様に素直に話してごらんなさい?気になってるんでしょ?」

茶化すように笑っているけど、確実に核心部を射抜いている睦の言葉に、何も言い返す言葉なんて出来なかった。

でも、確信を持ったように、睦は話してくるから、誤魔化しようがないと思って、俺は少し熱くなっている顔を縦に振った。

絶対さっき以上に茶化される…。

そう思っていたのに、睦の様子は、予想とは全く違っていて、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。