彼女ノ写真

購入してから一年半と少し、高校入学と同時に僕の愛車になったこいつは、これまでは主人である僕に忠実だった。




こんなにも不遜な態度なんか、ただの一度だって取った事もないというのに───この三日、たった三日間で三回も命令に背くと言う、何とも理解し難い、横暴な背信行為を続けている。




こんな調子だと、今日中にもう一回───謀反を起こされる可能性だってあるぞ。




まったく!冗談じゃない、、、。




「───はぁ、はぁ、はぁ、、、何なんだよ。別にチェーンが緩んでる訳じゃないのにな~、、、どうしたんだよ~お前?」




坂道の上り始め、だけどもう既にクタクタの僕は、無機物である自転車に対して、愚痴にも似た問いを投げ掛けた。




吐き出した言葉に、もしも重さや形があるのならば、今の僕の愚痴は地面に届くまでに、一体どれくらいの時間を要しただろう。




───そんな、エセ哲学者みたいな事を思いながら、僕は自転車を降り、いつもなら気にするだろう、手にまとわり付く工業用油独特の感触を味わいながら、ぐったりとチェーンを直し始めた。