スタジオでの撮影を全部終え、今日からロケ。

隣の県にある静かな高台にきているあたしは、カメラマンの指示通り、木にもたれながら目を閉じた。

うるさいほどのセミの声。
太陽の熱に焦がされた空気と、生ぬるい風に運ばれた草木の匂い。

「よし、いまから30分休憩!」

カメラをおろした彼は、つけてある望遠レンズをくるりと回しながら、みんなに声をかけていく。

「はい、美和ちゃん」
「あ、ありがとうございます」

ふうっとひと息つくあたしに、冷たいお茶と真っ白なタオルを持ってきてくれる陽子さん。

あたしは洗剤の香りが残るタオルに顔をうずめながら、木陰から離れ、そこから見える街並みをぼんやり眺めた。


百瀬美和、10代最後の夏はいい思い出になりそうです。