梅雨も明けて、夏到来。もう夕方なのに、時間を忘れさせるような明るさと、熱を出してしまいそうなほどの気温が、歩く速度を落としていく。

駅までの道を歩きながら、あたしはまだ、抜けた1本の髪の毛を捨てられずにいた。

“惚れちゃった? 透吾に”

「違うもん」
アカネさんのイジワル。あんなことを言われたから、変に意識しちゃったじゃない。
「あたしにはちゃんと彼……」
彼氏がいる、と言いかけて口ごもった。

「……」
いないじゃん。

あの信号を左に行けば駅。右に曲がると、TAMAKIがある。
「…………」
まっすぐ駅へ向かって、早く帰ろう。頭ではそう思っているのに、心はまだ迷っていて足は1歩も動かない。