クシャクシャと髪を乱された。あたしは前髪に混ざる長い毛を後ろへ戻すと、いま聞いたことを振り返る。

「…………」
どうしてあんなところにいたのだろうか。

「やっぱ性悪のやることは、その辺の女とは一味違うな」
……仕事中だったはずなのに。
「もう次の男か?」
そんな言い方をしていたけれど、それを言うために待っていたんじゃなさそうな気がする。

「男は単純だから、謝るきっかけを女が作ってあげれば……きっとうまくいくよ」
透吾は沈黙になって考え込んだあたしに、優しい口調で囁く。
「……電話かぁ」
もう嫌われている。そう思うと怖いけれど、このまま終わらせたくないという思いがある限り、簡単に諦めたくはない。

あたしはキュッと唇に力を入れて、静かにうなずく。帰ったら素直に謝ろう、と決意して。