ティアラ2

もう行くんだろうなって思ったから、あたしは1歩、2歩と後ろへ下がり、エンジンの音が鳴るのを待った。けれど、聞こえたのは一度しめたはずの窓が開く音。

「……何?」
じっと見つめてくるから、気持ち悪くて訊ねた。すると彼はフッと口もとを緩める。

「ありがとな」

下がった目尻。……優しい顔。

「ど、どういたしましてっ」
ひとが変わったみたいに笑うものだから、調子が狂った。

透吾はまた喉の奥をクククと鳴らし、どもり口調のあたしを面白がる。
窓はそのままゆっくりと閉まり、赤い車は去っていく。……あたしは今日も、見えなくなるまで彼を見送っていた。