君の名は灰かぶり



その衝撃でシートベルトを

していなかった少女は、

背中を柔らかい座席に打ち付ける。


「痛…っ!」


男はそんな事は、気にもとめず深く深く

アクセルを踏み込んだ。

少女は、あまりに突然の出来事に体を丸めて怯えているしかなかった。



男は、そんな少女の姿を

バックミラー越しに見て

さらに苛立っているようだった。



──…怖い。



そう感じる事しか出来ない少女は、

恐怖に身を縮こませた。


しかし、このような恐怖を

少女の躰は知っていた。



どこかで、

どこかでこの恐怖を感じた事があるのだ。


そして、少女はハッとする。


──…そうだ。ボクは、

この男の傍にいたいと思っていたんだ。