君の名は灰かぶり



それからアクセルを踏み込んだ。

すると、男はすぐに口を

開き苛々とした口調で、


「サクヤ、これはどういう事なんだ?あの男の所へ1人で行くなんてどうかしている。俺がお前の残したメールに気付かなきゃ、どうなっていたと思ってるんだ?」

と言った。


どうやら、男は少女に対して

怒っているらしい。



しかし、もちろん

目の前で苛立っている男の事さえ


思い出せない少女は、虚ろな瞳をして



「アナタは、誰?」


と訊ねた。


「…サクヤ、ふざけてるのか?」

男は、怒りの炎を

メラメラと燃やしながら低い声で訊ねた。


当然ふさけてなどいない少女は、


「何も覚えていない」


と車窓から見える遠くの空を見つめながらぼうっとして言った。