そうしているうちに車は、
動き出し薄暗い
マンションの地下へと潜り込んだ。
男は、手慣れた様子で
車を駐車場に停めると
まず自分が座席から降り後部座席を開き
サクヤと正面から顔を合わせた。
薄暗い駐車場で、サクヤの瞳に
やはり無愛想な男の顔は恍惚に映った。
「行くぞ」と男は、
少々乱暴にサクヤの細い手首を引いた。
その男の手は乱暴だったが、サクヤには
何故かそれが優しいものに思えた。
男があまりにも早く
サクヤの手を引くのでサクヤはついに
3階の階段で力尽きてしまった。
「………も、もう無理だ」
とゼイゼイ肩で息をするサクヤとは
対称的に男は、平然とした態度で
「体力が無さ過ぎる」と
飽きれ返ったように言った。

