君の名は灰かぶり



サクヤは、申し訳ない気になって「ごめんなさい」とシュンとして言った。


「…まぁ、いい。」


男は、つんとしてそう言うと

サクヤの顔の前に鍵を突き出して


「誰にも見られないように、階段を使って7階の308号室に行け。いいな?俺は、駐車場に行ってくる」

と目の前の大きなマンションを

顎で示して早口に淡々と言った。


その言葉にサクヤは、

一瞬だけ不安そうに瞳を揺らせた。


男は、その様子をまるで

豆鉄砲を食らわされたかのような

怪訝そうな表情で見ていた。


それから「分かった」と

鍵を受け取ろうとしたサクヤの肩を掴んで


「やっぱり、一緒に来い」


と鍵を渡さないままグイグイと

後部座席にサクヤを押し戻した。


男のその行動を理解出来ないサクヤは、

ポカンとして運転席に座り込み


シートベルトを装着した

男の後ろ姿を見つめた。