ハッとしてのん君を見ていると、のん君は自分の右手をグーパーさせた。
それを見てあたしは、落としたラケットをそそくさ拾ってのん君の胸に当てた。


「のん君っ!」


「……りっちゃん」


複雑な表情であたしを見ているのん君にあたしは満面の笑みで言った。


「ちゃんと目ぇ覚めてる!?」


するとのん君は困ったように笑った。
そして待っている友達の方に歩いて行った。


「ごめん。ボーっとしてた」


そう言って卓球をし始めたのん君を見つめた。



……のん君の右手の人差し指は実は感覚が鈍いらしい。


6年前――……。


浦田ママは、今同様出張で家を空ける事が多く。
あの日あたし達は自分達だけで夕飯のカレーを作ろうとしていた……。


「あwwwしみるっ」


玉ねぎを切っていたあたしは、涙をボロボロ流していた。
するとそれを見ていたのん君があたしから玉ねぎを取った。


「俺がやる!」


そうやる気満々ののん君だけど、料理は全然うまくなくて。
玉ねぎが飛び散る。
それを見たあたしはのん君を止めた。


「のん君が切ると、カレーの材料がなくなっちゃうよ。あたしがや……「いい!オレがやる!」


あたしがまた代わろうとした時。
ひぃ君が包丁を手にとって玉ねぎを切り出した。
のん君もあたし達と同様、涙をボロボロ溢していたけど。
綺麗に玉ねぎを切る。
それを見たあたしは感心。


「おぉー!」


あの時のひぃ君とのん君は、負けず嫌いで。
おまけにあたしが感心していた事にムッとしたのか、のん君はひぃ君から包丁を取り上げようとして。
ひぃ君はそれを拒んで。
いつものように喧嘩を始めた。


ホントにいつものような喧嘩だった……。