白い鼓動灰色の微熱

「やめて、やめて!」

 叫ぶだけで、もはや彩世の体に、彩世の自由の効く部分など残っていなかった。

 力強い足取りで、父はゆっくりとユニットバスにたどり着いた。

『さあ、これで続けられる。お前は彼女の手が欲しいんだろう?殺した後、お前が何をやっても構わない。お母さんにしたように、手首を切り落としたいんだろう?』

 父は知っていたのだ。

 彩世が、棺の中で眠っている母の手首を切り落としたことを。

 だから、怒ってるんだ。

 怒って、またそれを続けるように命じているんだ。

 彩世はゆっくりと首を横に振った。

 どうやら、彩世の首から上だけは彩世のものらしかった。

『ほら、彼女をうつぶせにして』

 震える手で、彩世は清香の体に触れた。

 ガタガタと、滑稽なほど震える手で清香の肩に触れ、彼女の体をうつぶせにした。

 真っ直ぐで色素の薄い髪を持ち上げると、白いうなじが現われた。