白い鼓動灰色の微熱

 ドアノブから手を離し、ふらりと踵を返した。

 何もない廊下でつまづいて、転んだ。

 しばらくじっとしてから、仕方なく起き上がる。

 そして、再び、転ぶ。

 自分を襲う重力に耐えられないかのようだった。

 思い切り良く転ぶので、全身が痛かった。

その痛みが去ると、ゆっくりと起き上がった。

 ユニットバスまでの数メートルの廊下が、何十メートルもあるように感じられる。

 彩世は、また、力が抜け切ったようにべったりと転んだ。

『もう、いい。お前がやらないのなら、お父さんがやる』

 父が頭の中で叫んだ。そうかと思うと、彩世の体の中に入り込んできた。

「お父さんやめて!」

 彩世は叫んだが、父に容赦はなかった。

 すくっと立ち上がると、真っ直ぐにユニットバスに向かった。