と、その手に暖かい塊が乗っかった。
父の手だった。
この状況に飽きて、どこかへ行ってしまったものだと思っていたのに。
『どこへ行くんだ?』
背中を向けていても、父が微笑んでいるのが分かった。
「外へ行かせて?」
彩世は懇願した。
『駄目だよ。まだやらなきゃいけないことがあるだろう?』
狂気を孕んでいるときの、いつもより優しい父の声。
「嫌だ」
『何だって?』
初めて見せた彩世の反抗的な態度に、父の声に怒気がこもった。
「イヤだ」
彩世の額に脂汗が伝った。
父に逆らったらどうなるのか、彩世は知らないのだ。
怖くて、逆らったことなどなかった。
父は、彩世の手に乗せた手に、力を込めた。そして、彩世の耳元に、ぞっとするような優しい声で、
「お父さんのいうコトを聞きなさい」
囁いた。
彩世の全身から、抗う力が抜けた。
父の手だった。
この状況に飽きて、どこかへ行ってしまったものだと思っていたのに。
『どこへ行くんだ?』
背中を向けていても、父が微笑んでいるのが分かった。
「外へ行かせて?」
彩世は懇願した。
『駄目だよ。まだやらなきゃいけないことがあるだろう?』
狂気を孕んでいるときの、いつもより優しい父の声。
「嫌だ」
『何だって?』
初めて見せた彩世の反抗的な態度に、父の声に怒気がこもった。
「イヤだ」
彩世の額に脂汗が伝った。
父に逆らったらどうなるのか、彩世は知らないのだ。
怖くて、逆らったことなどなかった。
父は、彩世の手に乗せた手に、力を込めた。そして、彩世の耳元に、ぞっとするような優しい声で、
「お父さんのいうコトを聞きなさい」
囁いた。
彩世の全身から、抗う力が抜けた。

