白い鼓動灰色の微熱

駅から家が近いことが、こんなに不運だと思ったことはなかった。

もっと喋っていたかったのに。清香の可愛さを見ていたかったのに、あっさりと家に付いてしまった。

「ここ?」
 
清香は驚いたような声を上げた。

「そうだけど」

答えながら、門を開けて中に入った。

振り返ると、清香はまだ遠くから家を見上げていた。

「広いね。こんなところに一人で住んでいるの?」

「広いかな。古いだけだよ。母は亡くなってるし、父と兄は出て行ったから、目下一人暮らし中ってところだよ」

「もったいない。彩人も一緒に住めばいいのに」
 
彩世は黙った。
 
彩人はきっと彩世の中の何かから遠ざかるために、家を出たのだ。
 
今なら、それが何なのかはっきり分かっていた。