心臓を口から吐きそうにバクバクいわせながら、振り返った。
 
そこには、清香のしなやかで可憐な指が捕まっていた。
 
何だ。
 
ホッとするあまり、その場に脱力しそうになった。

「今度のライブ、明日なんだって。だから、明日なら、彩人の目が届かないの」

「へえ」

彩世はその頭に何も描いてなかった。

「だから、明日、会場する時間から、彩世君のうちに行けないかなあ?」
 
清香の目が、覗き込んだ。
 
彩人の生まれ育った家が見たいのだ。
 
分かっている。
 
けれど、その家は、忌まわしいものとして、彩人が切り捨てたものでもある。
 
それを説明して、やめさせよう。
 
彩世の歌う時間は自分を、誰からも遠ざけて、鍵をかけてしまっておかなくてはいけない。