彩人は大学を出て社会人になると、家をあっさりと見捨てて、会社の寮に入ってしまった。

それから、約一年ぶりの逢瀬である。

しかし、彩人は何にも変わってないな。

相変わらず、かっこよくて、輝いてて。

彩世は誇らしい気持ちで、自分の分身である兄の姿を眺めた。

と、女の子が傍に来て、彩世に何か喋りかけた。

この大音響の中では聞き取れない。

彩世は面倒臭そうに、彼女をチラリと見た。

顔、ではなく、手を。

べっとりと長い爪に黒のマニキュアを塗っている。

そのぷっちりとした短い指から彩世は目をそらせた。