青年の唇は

私の右口角にかすかに触れる辺りに軽く着地した


拍子抜けして目を開けると


「ナイトが睨んでるから、退散するよ」

青年はそう言って、私からそっと身体を離した


ナイト‥?


とっさに彼のいたあたりに目をやると

彼がこっちを見ていた


相変わらず美女達に囲まれてはいたが

その手はもうディーヴァに握られてはいなかった


いつから見ていたのだろう

彼からはどう見えたのだろう


「あ‥」

言い訳したい衝動に駆られたが

何をどう言い訳するつもりなのか

そもそも言い訳するようなことなのか


軽いパニックに陥り

自分の顔がどんどん上気していくのが分かった


彼の視線に射抜かれたように

立ちすくむ私の耳に

ディーヴァが彼の名を呼ぶのが聞こえた


彼の視線が私から外れた


私はきびすを返した


そのまま振り向かず

一目散に出口を目指した


顔見知りのセキュリティースタッフ、マットが

「もう帰るのか?送るよ」

と、声を掛けてくれたが丁寧に辞退した


早くひとりになりたかった


心配して門までついてきてくれたマットに

「これ、彼にお願いします」

彼へのプレゼント – 天体写真集 – を託した