振り返ると、どことなく彼に雰囲気が似た青年が微笑みながら立っていた


「あの、私、踊りは・・」


その青年は、私の手からチェリーの種と茎の入ったカクテルグラスを取り上げてボーイに渡し

「大丈夫。僕が教えるから」

とソフトな声で言った


青年は私の返事を待たずに私の腰に腕を回した


「いいかい、さぁ、ワン・ツー・スリー」

巧みにリードを取ってくる

女性の扱いに慣れた感じだ


ぎこちなくステップを踏んだり、回転したりしながら

私はまたさっきの彼の表情を思い出していた


しばらくそうしていると、音楽が変わった


「ねぇ、僕の部屋においでよ」

青年がぴったりと身体を寄せてきて耳元でささやいた


慌てて後ずさりしてかぶりを振る

「あの、私、そいういうつもりじゃ」


青年は笑い出した

「オーケーオーケー、そう警戒しなくても」

青年は“降参”とでもいうように小さく両手を上げた


「え?」


「君、ディーだろ?知ってるよ」

そう言うと、今度は私の腰を両手で引き寄せた


「あ、あの・・」

上半身をそらして抵抗するのがやっとだ


「弟が気に入るわけだ。美しくて、魂に穢れがない」

青年はそう言うと、ゆっくり顔を近づけてきた


(弟?! ということはこの人は彼の兄?)

青年の言うことが本当なら失礼な態度は取れない


言われてみればこの青年の顔を私は見たことがある


私は青年の顔を直視した

そうだ、

彼と同じグループで歌っているあの青年ではないか


そんなことを考えている間に、青年の顔はどんどん近づいてきた


(どうしよう)


30を迎えた女がキスぐらいでじたばたするのも見苦しい

覚悟を決めて瞳を閉じた