私も彼に「おめでとう」の気持ちを伝えようと

人々の隙間を縫うようにしてゆっくり歩を進めた


あとお互い数歩ずつ近づけば

声が聞こえる距離になる、という時


ディーヴァが現れた


ディーヴァは半ば強引に彼の右腕を取り

自分の方に引き寄せた


彼は少し動揺したようにも見えたが

彼の進路を急激に変えさせた人物がディーヴァと知ると

途端に表情を変えた


- とろけそうな


まさにその表現がぴったりの表情(かお)だった


ディーヴァはそのまま彼の腕を取り

私の視界から彼を連れ去った


(もう少しで挨拶できるところだったのに)

そう思ったがしかたない


世界的に有名なあの大物ディーヴァが相手では

彼もされるがままになるしかないのだろう


次にチャンスが来るまで

彼に「おめでとう」を言うのはお預けだ


そう思った時

それまで私の視界を遮っていた

恰幅のいい男性がその場を離れた

そして私から彼とディーヴァが丸見えになった


その瞬間、目に飛び込んできたのは


ディーヴァが彼の手を握り

もう片方の手で彼の頬を押さえて

キスをした光景だった


「あ・・」


彼がキスされたことに驚いたわけではない


私が思わず声を上げたのは

その後の彼の様子に対してだった