何とか駐車場までたどり着いたが
すぐ後ろまでファンの群れが近づいてきている

焦れば焦るほど車のキーが鞄から出てこない

すんでのところで
二人とも車に飛び乗り
エンジンを掛けた


バン!バンバンバン!!


追い着いたファン数人が
私達の乗った車の窓やボディを乱暴に叩き

彼の名を叫びながら
車中を覗き込んできた


(怖い!!)


私は無我夢中でアクセルを踏み込んだ

後ろから狂乱した人々の声が聞こえる


「ハァハァハァ‥」

私達は荒い息を整える間もない


映画館からいくらか離れたところで
バックミラーを見てみると

何台かの車やバイクがすごい勢いで追ってきていた


「追ってくるわ」

「ディー、僕のいう通りに」

「え?」

「まくんだよ、彼らを」

「次、右!」

「KFCを過ぎたら左!」


私はアクセルをほとんど緩めることなく
彼の指示に従って必死にハンドルを切った

右に、左に

この中古車が出せる最大のスピードで


角を曲がるたびに
タイヤが悲鳴をあげる

私達の身体もそのたびに
大きく左右に振られた


「ハァハァハァ‥」

緊張と恐怖で心拍数が上がりっぱなしだ


彼がミラーを確認する

「そこ、左の茂みに突っ込んで」

「えぇ?!ここ?!」


ザザッ!ガガガガーッ!!


私は指示されるがまま茂みに突っ込んだ

「きゃぁあ!」

車はあちこちぶつかりながら
木々の隙間を縫うように進んだ


「あそこ、あの裏に回って停めて」


暗い茂みの先に
長方形の小ぶりな建物が見えてきた