今日はクラスが終わったら
彼と一緒に映画に行く約束をしていた


私が運転する小さな中古車に
彼を乗せて行く算段だ


始終屋敷の外で彼の出現を待ち構えているファンやパパラッチの目を
うまく誤魔化せるだろうか


私は作戦が成功するのを祈った

「ドキドキするわ」

「ドキドキするね」

彼はむしろ“ワクワク”という表情だ


今日は目立たないようにあえてセキュリティスタッフを連れて出ない

何かあったら保護者の私が彼を守らなければならない


重責に緊張しながら彼と車に乗り込んだ

「狭いけど我慢してね」

「気にならないよ」

彼は楽しそうだ


「シートベルトを締めてちょうだい。万一に備えて」

私は助手席の彼にシートベルトを締めるようジェスチャーした


「大丈夫だよ。ディーを信頼してる」

ニコニコと上機嫌だ

「そういう問題じゃないの。こちらがいくら気をつけても事故に遭うことはあるものよ」


彼は一向にシートベルトを締めるそぶりを見せない

「もう。お願いだから」

私は彼にシートベルトを締めさせようと

助手席のシートベルトを引き出すために彼の身体の前に乗り出した


そのため不安定な姿勢になった私の身体を彼が両手で支えた

おかげで助手席のシートベルトの先端に手が届いた

「ありがと」

その時、

彼が私をぎゅっと抱きしめ

無防備になった私の首筋にキスをした


「…」


1回

2回

3回目は耳たぶに


「…大人しくして」

私は一気にシートベルトを引き出しカチン、と締めた