とても豪華だが、暖色系でまとめられた落ち着いた部屋だ


壁には美しい絵画が
テーブルにはバラを中心とした
美しいアレンジメントが飾られていた


私は一目でこの部屋が気に入った


窓から良く手入れされた中庭が見えた


素晴らしい環境だわ、と私は感心した


自然に囲まれ
美しいものに囲まれ
静かで落ち着いた部屋


抱いていた警戒の気持ちのようなものが
和らいていくのを感じた


それからしばらく

中庭を眺めたり
ソファに腰をおろしたり
今日の授業の予習(十分してきていたが)をしたりしていた


どのくらい経っただろう

部屋の主は現れない
約束の時間はとうの昔に過ぎている


不安になり始めた頃
部屋のドアが開いた


私は素早く立ち上がり
ドアの方を向いた


彼が入ってきた

思っていたより華奢で手足が抜群に長い


初夏だというのに
明るい色の長袖のシャツをパンツインして着ている
足元は黒いローファーだ


「はじめまして」

私は名前を告げた


「はじめまして」

彼も名前を告げた


「…」

「…」


私たちはお互いの顔を見合せて
クスッと笑った


緊張していたのは
彼も同じだったようだ


彼が椅子を引き

「どうぞ」

女性のような声でささやくように言った


「ありがとう」

私は椅子に座るとレジュメを取り出した

「最初に自己紹介させていただくわ」


彼も向かいに座った

「ディー」

「え?」

「ディー、って呼んでいい?君のファーストネームのイニシャル“D”だよ」

「ええ。構わないわ」